ハワイ島コナへ行く用事がてら、以前から興味のあったバニラ農園のツアーに参加してきました。
訪れたのは、コナ空港から車で5分という抜群のロケーションにあるバニラ農園『The Vanillerie』。
ここはもともとは樹木を栽培・販売するナーサリーでしたが、十数年かけて少しずつバニラ栽培に取り組むようになり、2017年頃から農園ツアーを始めたそうです。
そんな農園ツアーもコロナ禍で一年以上行われていませんでしたが、昨年9月に入りようやく再開することに。
初めて知ることばかりでかなり面白いツアーだったので、訪問してから時間が結構経っていますが、覚えているかぎりその内容を書き残しておこうと思います。
農園の入り口を通り抜けると、真っ先に目に飛び込んでくるのがこのかわいらしい建物。
建物内には受付とギフトショップがあります。
敷地内には遮光ハウスが4棟あり、強い日差しからバニラを守りながら栽培しています。
年間平均気温が20〜30℃のコナではもちろん暖房いらず。
ただ、私たち夫婦が住む島の反対側のヒロとは対照的に降雨量が少なく乾燥しているので、自動散水機でかん水しているそうです。
これは栽培一年目のバニラ。
バニラはラン(orchid)の仲間なのですが、写真のようにつる(茎)を伸ばしながら生長します。
節から太い気根を出してほかの物にからみつくので、エアープランツ同様、地面に植える必要はありません。
この農園では地面に植える代わりに、PVCパイプと網を組み合わせて作った支柱の内側に、シンダー(溶岩を砕いたもの)やウッドチップを混ぜた培土を入れ、その上にバニラを這わせています。
いっぽう、これは栽培3年目のバニラ。
かなりつるが伸びているのがわかります。
バニラの花は、4月下旬から6月頃に咲き、収穫は9月頃(栽培地域によって時期は多少ずれる)になります。
それも花が咲くのは一年に一回で、8時間から12時間ほどしか咲かないそうです。
そのうえ、原産地のメキシコや中央アメリカでは人工受粉しなくても受粉してくれるハチが存在しますが、これら以外の地域にはそのハチが存在しないので、花は一つ一つ人工受粉しなければなりません。
バニラは長年、ヨーロッパのエリートたちだけが楽しむ贅沢品でした。
当時、バニラの最大の生産者だったトトナック族(メキシコの先住民)は、バニラの栽培方法をヨーロッパ人には秘密にしていました。そうすることで、ヨーロッパ人により奴隷にされ滅ぼされた近隣の先住民たちと同じ運命をたどらないよう自分たちを守ったのです。
しかし、やがてメキシコからバニラの挿し木は盗まれてしまいました。ヨーロッパ人たちはジャワ島、マダガスカル、レユニオン島(マダガスカル東部に位置するフランスの植民地)などの熱帯地域でバニラの栽培を何度も試みましたが、いずれも失敗に終わりました。そのため、メキシコが市場を200年以上にわたり独占し、バニラは非常に高価でした。1819年、レユニオン島でようやく挿し木からの栽培が成功しましたが、花が咲くことはまれで、バニラが結実することはついぞありませんでした。
1836年、ベルギーの植物学者シャルル・モレン(Charles Morren)がバニラの受粉がメキシコ固有のハチによって行われること、そしてハチが存在しないメキシコ以外の地域では、人工授粉をする必要があることを発見しました。しかし、人工受粉の具体的な方法については謎のままでした。
ところが、1841年、レユニオン島の12歳の奴隷少年、エドモン・アルビウス(Edmond Albius)が人工授粉の方法を考案しました。
レユニオン島で奴隷として生まれ育ったアルビウスは、農園主のフェレオール(Fereol)から植物について学びながら労働に従事していました。1841年、アルビウスは主人が22年間大切に育てつづけたバニラのツルに、2つのバニラが結実していることを発見。それはアルビウスが花を開いて小さな棒を差し込んで人工受粉させたバニラが結実したものだったのです。その後、彼は島中の農園で働く奴隷たちにその受粉方法を指導するトレーナーとなり、レユニオン島とマダガスカルは一躍、バニラの一大産地になりました。
受粉した花は4〜8週間かけて、下の写真の真ん中のいんげん豆のような細長い果実になります。
このように豆の莢のような形なのでバニラ・ポッド(Vanilla pod;種子鞘)と呼ばれます。
バニラ・ポッドができるまでには通常3年の歳月を要するそうです。
それも一つの苗につき一束のバニラ・ポッドしかできません。
緑色のバニラ・ポッドが次第に黄色く色づいたら収穫どき。
パニラ・ポッドは収穫された段階では香りがまだありません。キュアリング(curing)と呼ばれる発酵と乾燥を繰り返すプロセスを経て、ようやくバニラ特有の甘い香りがするようになります。
キュアリング技術は国や地域ごとに差があり、例えばメキシコやマダガスカルでは天日干しするのが一般的ですが、ジャワ島では燻製することが多いらしいです。
このバニラ農園では、収穫したバニラ・ポッドをまずは2分間ゆでて熱湯処理します。
そして 4 時間ほど天日干しし、
20 時間ほど下の画像のような暗室に入れておくそうです。
この天日干しして暗室に保管するというサイクルを約一か月繰り返します。
このようなキュアリングを経て、バニラ・ポッドは「バニラ・ビーンズ」になり、その成分を抽出し溶剤に溶かしこんだものをバニラ・エッセンスやバニラ・オイルと呼びます。
今のやり方にたどり着くまでにかなり試行錯誤したそうです。
食卓でおなじみのバニラの栽培がこれほど時間と手間のかかるものだとは思いもしませんでした。品質の良いものの価格が高いのもうなずけます。
ツアーの終わりには自家製のおいしいバニラアイスクリームを食べさせてもらえました。
敷地内にはオリジナリティーあふれるバニラを使用した製品が並ぶギフトショップもあります。
ツアーは午前10:00または午後12:00スタートの1日2回。
今後需要が増えればツアーの回数は増やすそうです。
73-4301 Laui St, Kailua-Kona, HI 96740